「雪見御膳」とは、豪雪地・新潟県十日町市および津南町(越後妻有地域)で行われている、越冬のための知恵がつまった食文化を復活させる「大地の芸術祭」のプロジェクト。

Photo Yamagi Ayumi
ここ新潟県の越後妻有地域は、冬のあいだ人の背丈を超すほどの雪が積もる。厳しく長い冬ではあるが、雪は春になれば清らかな水となり、山は華やぎ、里山の田畑はうるおう。
ここで暮らす人々は、雪が恵んだ農作物や山菜、木の実、魚やジビエをいただき、また次の冬を越すために保存食の作り方や貯蔵方法を独自に発展させてきた。
また、娯楽が少なかった昔、この地域の冠婚葬祭は今以上に盛大にとりおこなわれた。人々が集まりにぎやかなことを表す方言の「ごったく」が冠婚葬祭を意味するのも、その名残だ。
そんな「ごったく」には、客をもてなすための「ごっつぉ(ごちそう)」がつきものだ。当時の結婚式や葬式は自宅で行われ、その家の近所や親戚のお母さんたちが総出で料理を作り、食べきれないほどの様々な料理が御膳で運ばれてきた。
集落によって御膳の内容が少しずつ違うことも、食の流通が乏しかった昔の大きな楽しみの一つだったという。
雪に閉ざされた地域で育まれた、素朴で滋味あふれる食事。人と人とが触れ合う楽しみ。
そんな雪国ならではの食文化を追体験できるのが、「雪見御膳」だ。

Photo Nakamura Osamu
「雪見御膳」は、ここ十日町市をふくむ越後妻有地域で開催されている世界最大級の現代アートの祭典「大地の芸術祭」オフィシャルツアーのランチで食べることができる。

鮭の昆布巻き。昔は十日町市まで鮭が川を遡ってきていた
「雪見御膳」は、2014年の冬から始まった。その名の通り、雪が降る冬期間のツアーの昼食として提供される。
大地の芸術祭作品を楽しんだあと、十日町市内の様々な集落に訪れ、昼食をいただく。昔の「ごったく」のように、集落のお母さんたちが一堂に集まって料理をふるまってくれるのだ。

過去開催時の集落のお母さんとお父さん。このときはお父さんたちがジビエ料理を、お母さんたちが煮物をふるまってくれた
広い座敷に皆で座り、漆塗りの御膳で食事を楽しむ。ときおりお母さんたちがおかわりをよそいに来てくれたり、隣に座って方言交じりの話をしてくれる。
この時だけはツアーの参加者全員が見知らぬ他人ではなく、まるで昔なじみの隣人のように感じることだろう。
空腹だけでなく心も満たしてくれる集落のお母さんたちとの素朴であたたかな交流は、この「雪見御膳」ならではの体験だ。